「私、結婚する。」
「・・・・・・・え。」


ぽとり、俺の手から滑るように落ちていった箸はそのまま雨風に晒されて劣化した地面の上へ。
うわ汚い洗ってこなくちゃ、そんな気力は沸いてこない。頭で思っていても行動に移せない時もあるものだ。
隣の方でも、パンを落としたり膝の上に箸を落としているやつが何人も居て、
ただ全員共通しているのは俺の隣に居る少女を凝視していること。


「なんつ、った?」
「だから、私結婚する。」


阿部の切羽詰った顔はなんと言い表せばぴったりなのかは解らないが、眉間の皺は健在だ。


「誰と。誰と結婚するんだ言ってみろ、吐け、誰だ。(そいつをぶっ殺す。)」
「やだなぁ泉、そんな突っかかってこないでよー。大丈夫、泉とは絶対に結婚しないから。」


俺とは結婚しないんだってさ、俺とは、俺とはしないって・・・
ぶつぶつ小さい声で言う泉の肩をぽんぽんと慰めるのは花井。ご愁傷様。

しかし、気になる。

彼女は今結婚すると言った。確かに、先日誕生日を迎えたのでもう結婚できる歳。
だけどそれはいきなりすぎるんじゃないだろうか。第一、学校はどうするんだろう。俺たちのマネジは?
結婚するって、男の方は18じゃないと出来ないじゃないか。ていうことは相手は年上。


「(年上が好きだったんだ・・・。)」


大大ショックだ。


「男に夢と希望と経済力があるように、女は結婚してなんぼだよ。」
「だからって今することないっしょ!学校は?俺らのマネジは!?」


水谷と俺の心はどうやら繋がってるらしく。心の中で思ったことを全て吐き出してくれた。
眉を下げる水谷。そんな彼の言葉を聞いて、隣の少女は食べる動きを止めた。
それから、数度瞬きをすると大声を上げて笑いだす。どうしたの?




「ねぇちょっと先走らないでよ、今とは言って無いよ、将来的に結婚するって言ったんだよ。」




なんだ、そうなのか。一同安堵の溜め息。
もし学校辞めてマネジも辞めて結婚するなんて言われたらどうしようかと思った。
本当にそうなったらどうしよう。泣くな、一生野球できなくなる。


「じゃあさ、じゃあさ!どんなのと結婚したいの!?」


と、言ったのは田島。その問いはある意味誰が好きかと告白を求めているようなものなんじゃないだろうか。
聞くのは怖い、けどやっぱり聞きたいからあえて突っ込まない。


「んーっと。」


彼女も彼女でこたえる気満々。一同の視線が集まる。




「金、権力、地位の三拍子が揃っている人。」




真顔で欲望丸出しな人を見たのは初めてだ。


「それと野球好きな人がいいな。イチローとかゴジラとかが同年代だったら結婚してたよ。」


イチローとゴジラが年上で良かった。
そうなると、将来有望な、相当やり手の海外でも活躍する野球選手じゃないと駄目だって事か。

これは、厳しい条件だと思う。
プロを目指した選手の、ほんの一握りしかたどり着けない場所がそこではないのか。


「けどね、やっぱり私のことを思ってくれる人がいいの。それだったら権力と地位はいらない。」
「つ まりっ、好きな人と、け、け、結婚!したい、ってこ と・・・?」


それは本当ですか。地位と権力が無くても幸せに出来れば問題ないと?


「うん。そりゃそうでしょ。あ、でもやっぱり金はほしいよね、養育費とか老後とか考えるとさ。」


子供の教育費はバカになんないらしいよと、なんとも素敵な笑顔で言ってのけてくれたので、
思わず三橋の卵焼きを盗もうとしていた手をしっかり握ってしまった。

驚いた目で振り返られるけれども、後で思い出す度に赤面するだろうこの行動を悔やみたくは無い。
もう一度、力を込めて握った。


「え、違うよ、三橋のがすっごい美味しそうとかそういうのじゃないよ!」


ごめん、俺もそういうつもりで手を握ったわけじゃないから。
なんともムードの無い子だなぁなんて思うけれども、




「じゃあ、俺と結婚、はまだ出来ないから、婚約しようよ。」




好きなんだからしょうがない。


君の求める人になれるか解らないけど君を幸せにできる自信だけはあるんだよ。
これだけしか持っていないけど、いいですか?俺は君が大好きだ。


「ちょっとお前、栄口!」
「何言ってんだよ!」
「どさくさに紛れてんじゃねぇ!!」



「うん、いーよ!」
「ほらこいつも困って、ってええぇえええぇ!?」
「だって勇人のこと大好きだもん!」




それはもちろん彼女も一緒なんだよね。




(あれ?知らなかったんだ。)(彼女は俺と交際中ですよ。)




先手必勝


「ねぇねぇ千代ちゃん聞いて!昨日ね、勇人に結婚しようって!結婚しようって言ってもらったんだよ!」
「良かったね、おめでとう!」






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二人の間柄を知っていたのはマネジ仲間の千代ちゃんのみ、という裏話。
栄口くんがさり気なく大胆だったら・・・というのに妄そu想像が膨らみます。
腹の中が黒い栄口くんも好きですが私は真っ直ぐで純粋な栄口くんを目指そうと一人決意してみたり。

さり気なくこの間(8月)誕生日だったおお降り発端をくださった、というか私が勝手にもらったお友達め○ちゃん!へ。
来年は何か祝わせてください、ラブユー!というかチョイスが栄口くんで平気だっただろうか。

【蛇足】
栄口くんの隣にヒロインさん
ヒロインさんの隣に三橋くん
三橋くんの隣にアベイブリッジ(阿部+ベイブリッジ)
アベイブリッジ(阿部+ベイブリッジ)の隣に花井くん
花井くんの隣に泉くん
泉くんの隣に水谷くん
水谷くんの隣に・・・  っていう、円形になってます。

お昼休みは普段一緒に食べないけど、『今日はなんだか気分で一緒に食べようと思った』と言ってのけそう。
当サイトはご都合主義でございます!!(おい)


<<07.8.23>>