「ルテシーア!」



いきなり。
緊急だと言われて赴けば。



「ルッテシーア!」



頭のイカれたオンナがまた騒いでた。










そのイカれたオンナは、スピット・ファイアの傘下チームの女だった。


「スピットさんお世話になりました、ルテシーア。」
「ありがとう、元気でね。」


過去形なのは、こいつが外国に永住する事になり、チームを抜けたからだ。
今日が旅立ちの日。チーム仲間が多かったのだろう、飛行場に見送りに来た人数が半端じゃない。


「シムカさんも、ありがとうございました。とても楽しかったです、ルテシーア!」
「うっ、ぜ、ぜっだいあぞびにいぐがらねっ・・・!!」
「ああもう!泣かないで下さいよ!」


仲間という意識は無かったものの、俺とこの女は偶然隣同士の家だった。
随分長い間交流があると、必然的に知人という枠に入るわけで、緊急だかなんだか知らないがこうして駆り出されたわけだ。


「ルテシーア鵺くん。」
「なんだよ。」


この女は頭がおかしい。これ、ルテシーア。
本当に、毎回のことながら言動が理解不能で困る。クルったオンナだ。


「此処はルテシーアで返すべきだろうに!」
「うるせぇな、こっちは機嫌わりぃんだ。無理矢理叩き起こされて此処まで全力疾走させられてんだよ。」


たかがお前の別れの挨拶の為だけに、
という台詞が吐き出される前に後ろからド突かれて、引っ込んだ。ガキ共だった。


「ルテシーアお姉ちゃん!向こうに行っても元気でね!」
「ルテシーア!たまには遊びに来てね!」
「ルテシーア!僕たちを忘れないでね!」


泣いて群がるそいつらにルテシーアを返しながら、もう一度俺を見て苦笑いした。


「ごめんね、朝早くから。」
「本当にな。」



「・・・本当に、ごめんね。」
「・・・謝るな。」


ルテシーア、そう言って、俺の瞼にキスを落とす。すると、次の言葉を交わす事無く時計を見て急いで走り出した。
離れたところに居る両親も、頭を下げてからあいつの肩を抱き歩き出す。時間になったんだ。




「バイバイ。」




小さな声でそう言ったあいつを、泣きそうなあいつを。


『行くな』と。


もっと説得すれば良かったと今更思っても遅かった。









「鵺さいてー!ルテシーアわかる!?」
「ひらがなで、伸ばし棒を『い』にして、逆さ読み!」
「鵺くんサイテー!ちゅーしてもらったのにバイバイの一言も言わないなんて!」
「サイテーサイテー!!」


ガキとシムカに責められ、鬱陶しくなってうるせぇと追い払う。
その様子を見て笑っていたスピット・ファイアはおもむろに両手を広げた。
俺に向けて。


「胸貸そうか?」
「スピット・ファイア死ね。男色の趣味ねぇし。」
「いやいや、そういう意味じゃなくて、ね?」



ああ、解ってる。



あの呪文の言葉の意味も、妙に冷たいものが頬を伝って流れてるのも。


「解ってるようっせぇな・・・。」


だって、俺がそれを返したらあいつは泣くだろ?
未練がましくいつまでもいつまでも引きずるだろ?



現に俺は、



もうちょい優しくしてやれば良かったとか、
何がなんでも止めれば良かったとか、
好きだって言えばよかったとか。色々ずるずる引きずってるんだ。




「キャー、鵺くんの涙レア!!写真写真!」
「泣いてねぇ!やめろケータイのカメラ向けんな!」
「鵺はフラれてキレて泣いちゃったんだよ!」
「事実を捏造してんじゃねぇガキ共ッ!!」


泣いたのは、泣いてほしく無いお前の分とか、そういう恰好いい理由じゃない。
ただ俺がそうしたかったから。


誰が代わりに泣いてやるもんか。





愛してる

(ルテシーア、るてしーあ、るてしいあ、あいしてる。)



「やっぱり鵺くんと離れるのやだよぉ!!」






「か、帰ってきた!?」
「おま、飛行機は!?」



「うるせードタキャンだばかやろー!うわあああ!!鵺くん愛してるー!!」
「うっせーのはお前だ!バカ、アホ、狂人女!!こんな所で泣くな叫ぶなッ!」
「鵺くんだって泣いてるし叫んでるくせにーバカやろー!!」
「泣いてねェっつってんだろうが!!」


嬉しくて涙なんて引っ込んだよ!わりぃか!?












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ブログにお試しでUPしたやつです。短いので小ネタに・・・。

結局ルテシーアの話と鵺が泣くのとスピ鵺風にしたかったのが混ざった感じ。
飛行機ドタキャンできるのかな、むしろゲートからどうやって出てきた。
無理じゃないと思えるのは乗った経験が一回きりだからかと。幼稚園以来です。
覚 え て な い !

なんだこのシリアスから一気にカオス空間に迷い込んだ感じは。







<<08.3.20>>