「・・・・・・・・あの。亜紀人クン?」 「ん〜?なに?ちゃん。」 爆発的に可愛いスマイルとは裏腹に、グイグイ私の腕の抵抗を押し切ろうと押してくる。 「根本的な質問してよろしい?」 「いいよ。」 「あんた朝からナニやってんですか。」 - 同じソラの下。キミは何を想う・・・? - 「え?ナニって・・・夜這い?」 私の質問に、亜紀人は何事もなかったかのようにサラっと答えた。 あー、そうですね。今の私は処女喪失の危機に陥れられていますね。ふぅむ。納得! ・・・って、納得できるかぁああぁああ!! 「というか、夜這いって夜やるから夜這いなんじゃないの?」 「今、夜中の四時だからまだ夜這いって言えるよ?」 亜紀人は時計を差しながら、今の時刻を教えてくれた。 今の時刻、正確には四時四十四分四十四秒。はっきり言ってとてつもなく不吉な時間。 まあ、そんな時間はこの際気にしない方向でみるとしても、問題は私の上にのっている人物だ。 「んで、朝から私の上に馬乗りになってボタンに手をかけようとしている亜紀人クンの目的は?」 「ちゃんの処女喪失。もちろん僕の手で。」 「亜紀人、一回死んでこい。」 亜紀人はそれを聞くと、ぶーぶーと可愛く頬を膨らませて反抗してくる。 「だって死んだらちゃんとイイコトできないでしょ?」 「いいよ。一生できなくて。結婚するまでヴァージンは守りたいの。」 「じゃあ、今僕と結婚すればいいんだよ!ほら、これで万事解決!!」 「ねぇ、亜紀人って頭いいの?馬鹿なの?」 不毛なやり取りの中も、私と亜紀人の戦いは続く。男女の力の差はあるけど、 火事場の馬鹿力ってやつなのか、亜紀人の手をなんとか防いでる。 だって処女がかかってるんだもん!必死になるわ!! 「ちゃんの処女ちょーだい。」 「やらん。絶対にやらない!!」 「スルメイカあげるからさ。」 「五十円で体売るほど根性腐ってないからね、私。」 「えー!だってちゃんってばスルメイカ大好きでしょ!?」 「大好きだけど、体とスルメイカを天秤にかけたら体の方が大事に決まってるでしょ!!」 「大体、なんでそんなことするの!」 もうそろそろ腕も痺れてきたときの、苦し紛れの一言。 だけど、亜紀人は一瞬にして力を引いた。 ・・・え?どうしたんだろ?何かいけないこと言ったっけ? 「・・・・・・の、」 「え?」 聞き取れないほどの小さな声で、私の上に居る亜紀人は呟く。 けれど、次ははっきり聞こえる声で、私の目を見て言葉を放った。 「ちゃんの心は、咢のものでしょ・・・?」 切なそうに、さっきまで楽しそうに笑っていた顔から『楽しい』という感情が 引いていった気がした。けれど、私の方も血の気が引いていく。 「な、なんでそのコト・・・!!」 「僕、全部知ってるもん。 咢が僕に内緒でちゃんと付き合ってることも、まだキスは一回もしてないことも。」 確かに、亜紀人に隠し通そうとするにはムリがあったのかもしれない。 だって、亜紀人と咢は同じ体を共有していて、意思だってちゃんとあるんだから。 「僕ね、ちゃんのコト好きだったんだよ。ううん。今でも好き。 だけど、心が咢にいっちゃったから、僕の気持ちは放っていかれちゃったんだよ・・・?」 咢が、亜紀人に言いたがらなかった理由がやっと理解できた。 付き合ってるって言わなかったのは、きっと咢なりの気遣いだったのかもしれない。 切なそうな目は、いつのまにか目の前まで迫っていた。 「僕ね、ちゃんには幸せになってもらいたいんだ。 >ちゃんに好きな人できたらそれでいいとも思うし、応援したい。 けど、相手が咢なのが許せないんだよ?同じ体で、同じ声の、僕じゃない、 もう一人の僕が相手だなんて。」 悲しそうな目をする亜紀人に、私は反論する言葉さえ浮かばなかった。 だって、こんな悲しそうな亜紀人をみるのは初めてなんだもの。 いつも笑っている亜紀人から笑顔をとったら、まるで私の方が悪いみたいで、 謝らなくちゃって気持ちで一杯になってしまう。 「ねぇ、ちゃんは耐えられる?ちゃんの中に、もう一人別のちゃんが居て。 もう一人のちゃんも、同じ人を好きになって、そのちゃんが好きな人を取って行って。 自分がすぐそばに居るのに。手が届かないのに。イチャイチャされるのって、 どんな気持ちになる?」 怒りも、悲しみも、憎しみも混ぜたような声で亜紀人はじっと私の目をみながら問いかけてきた。 私は、亜紀人や咢みたいに特別ではないけれど、もしそうだったらって思うと、 今の亜紀人みたいな感じになってしまう。 「私は、・・・耐えられないと思う・・・・・・・。」 好きな人が手が届くところにいるのに、最後の距離がどうしても縮まないなんて。 亜紀人にいたっては、それが現実になってしまったんだから尚更辛いのかもしれない。 けど、私は咢が好き。亜紀人はそういう感情でみれないから、断言できなかった。 「・・・ちゃんも、そう思うよね?」 けれど、亜紀人にいたってはこの答えでもよかったらしく、至近距離で可愛らしく微笑む。 切なさが残る目を見れたのは、これが最後だった。 「んっ・・・・!?」 次の瞬間、亜紀人は私に口付けをしていた。 もがこうにも、いつの間にか押さえれれていた腕は動かす事を許されず、 ただ亜紀人の気がすむまで貪られなければならなかった。目で、ヤメテと言っても 亜紀人は口付けを辞めず、更に呼吸困難な状況を作り出していってしまう。 本気で酸素がなくなって、呼吸できずに死にそうになる間際に亜紀人は唇を離す。 その瞬間、私はいきなりはいってきた酸素と、どちらのものとも解らない唾液が 気管に入ってしまったせいで勢いよく咳き込んだ。 その時には両腕とも自由になっていて、亜紀人に咳がかからないように手で口を押さえる。 そんな私を見て、亜紀人は呼吸一つ乱さず、にこにこと微笑んでいる。 苦しい呼吸の中、私は初めて亜紀人が『恐ろしい』と感じてしまう。 亜紀人は、私の呼吸が整うのを見計らって、耳に唇をよせて、ささやく。 「僕はね、ちゃんの気持ちが僕に無いなら、せめて体だけでも貰っちゃおうと思って。 ・・・咢とはまだなんでしょ?あ、もしかして今のがファーストキスだったのかな?」 くすくすと笑う声は天使みたいに可愛いのに、言っている事の重大さのせいで、 重々しく感じられた。亜紀人は私の上から退く。亜紀人から解放されたと思った私は、 不覚にも声を抑えて涙を流す。 そんな私に気が付かないのか、亜紀人はベッドの近くにある小窓のカーテンに手をかけた。 「ねぇ、ちゃん。もう朝日が昇ってるよ。綺麗だね。」 私は一言も答えていないのに、綺麗だといいながら、亜紀人はぼぅっと窓の外を眺めている。 「見ているものは同じなのに、感じているものが違うなんて。 つくづく人間って協調性がないよね。 ・・・・・いっそのこと、皆空になってしまえばいいのにね。」 独り言のようにそう呟くと、亜紀人はくるりとこちらを振り返った。 思わず、肩が大きく揺れる。 「あれ?ちゃん、泣いてるの?」 「泣いてないっ・・・!!」 「強情はるのはよしなよ。」 そういって笑う亜紀人は、少しだけ演技がかったように、大袈裟に溜め息を付いた。 「そんなちゃんに追い討ちをかけるみたいだけどね、咢、 実は今までの一部始終みてるんだよね。」 「・・・・・・・え?」 「わざと起こしといたんだ。」 彼にとってはどっきりが成功した程度にしか思っていないけど、私はその言葉に衝撃をうけた。 咢が、おきてた? 「あ、いっけない。今日は咢と体交代する日だったんだ。」 「え、ちょっ・・・・!!」 それって、今体を変えるって事・・・!? それだけは、阻止しなくちゃいけないと思ったけど、 私が行動に移るよりも早く亜紀人は眼帯の位置を既に変えてしまう。 「それじゃあ僕はひっこむけど、ちゃん。忘れないで?」 「君の体は僕のモノだからね。」 私の叫びも虚しく、咢へと変わってしまった。 「・・・・ごめんっ・・・!!」 「・・・・。」 長い長い沈黙の後、その沈黙を破ったのは私自身の嗚咽だった。 咢を裏切ってしまった、私は最低な女だと思いながら。 泣きたいのは咢の方なのに、私ばかりずっと泣いていた。 咢に怒られる事を覚悟していた。けど、反対に咢は私を抱きしめて、何度も何度も謝る。 咢の腕の中で泣く私は、誰にでもなくもう一度謝罪の言葉を漏らした。 ----あとがき--------------------- はい!一万ヒット祝いなのに、もう死ぬほど遅くなってしまいました! ごめんよ林檎!!(汗)ホントすんませんっ!! どうしてもお題にそってる話が浮かばなくて、ゴニョゴニョ・・・(言い訳) その上、悲恋でなんかダークチックに仕上げようとしたら、もうダメなものに!! 最初の方がギャグで、後からシリアスになってしまいました・・・! あれ?シリアス大丈夫だよね?好きだよね!?(焦) ギャグで通そうと思ったのに!!どうやったらシリアスに向いていくんだ自分!! つか、亜紀人黒すぎましたか!? とりあえず、亜紀人の胸中は誰にも解るけど解らない。みたいな感じで。 私の文才じゃ、亜紀人の気持ちが出し切れているか不安ですっ・・・!! こんなものでよろしければ、焼くなり煮るなりかぶと煮にするなり(笑)してやってください。 林檎、お題提供ありがとうございました!! ※ヒロインさんのデフォルトが「翔魔林檎」なので「林檎」になっていますが、 野山野さんとは違います。※ ・・・と、いうことで。一万企画で上げました!そして下げたのをこちらへ・・・。 うわぁ・・・今読み返すと穴に埋めたくてしょうがないです(汗) でも、この頃の私はきっと頑張っていたんでしょう!うん!そう思うことにします! |