今日と言うこの日をどれ程待ち望み、何度訓練を繰り返したか。君には解るか?いや解らないだろうね、所詮愚民だ。その愚民である君に僕という高貴な人間から特別に声をかけてあげよう。ああ、目に浮かぶよ。僕の命令に従い行動する君の様を。

そう演説する奴は、目さえも合わせない彼女に手を差し出した。























「さあ、さん。僕にお菓子を寄越したまえ。trick or treatだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


次の瞬間、顔面に強烈なパンチが食い込むのは既に予想していた。しかし、思いの他バキバキと骨と肉を抉るような音が凄くて、受けてないこっちまで思わず痛みを錯覚してしまう。受けた本人、つまり竹中半兵衛は顔面を抑えて長い間悶え苦しんでいたけど、殴った本人、の鼻で笑う声を聞いて勢い良く立ち上がった。毎度思うけど、体頑丈だよな、竹中。


「どうだ、甘いだろう?己が血は。」
「くっ・・・!さん、僕の口を切るだなんていい度胸じゃないか!一発殴らせろ!」
「黙れよホモが。お前にやる拳はあってもお菓子は皆無、去るかもう一発血の味を味わうか。」


いつもはもう少しふざけて言うも、今日に限っては何かと竹中を嫌う。言葉も刺々しい。いや、竹中一人に対してではない、機嫌が悪い日なんだ。所謂、女の子の日。二日目らしい。それに気付いてないのは竹中だけ。


「最低だ、暴力的な女性が過去どんな末路を辿ったか知っているかい!?」
「テメーに説教される覚えは無いです、立ち去れハンペン。」
「ハンペン?僕がハンペン?君なんか食す価値すらないじゃないぶふぁっ!!」
「あっちゃー・・・。」


今度は腹に一発。これは鳩尾に入ったな。
びくびく痙攣を起こしている竹中を尻目に、は俺様の元へと駆け寄ってきて手を差し出す。


「佐助、なんか、竹中半兵衛という存在を抹消できるような毒薬が欲しいな。」
「欲しいな、って、可愛くねだっても俺様そんなん持ってないよ、残念。」
「忍でしょ、忍者でしょ?仕入れてこいよ、竹中専用毒薬。」
「俺様学生だから。どっちかっていうとと旦那のお世話係りだから。」


・・・あ、今のは自分で言って悲しくなった。
確かには旦那と並び放っておけない人ベスト1に輝いてるけど、そこまで世話をするつもりはない。それに、なら毒薬を使わずに竹中を抹殺する術くらい持ってるんだよね、これがまた。それでも俺様の回答に納得できないらしく、ぎろりと睨みつけて止まない。


「そんなぴりぴりしてちゃあ可愛い顔も台無しだぜ?ほら、チョコやるから落ち着けよ。」
「慶次・・・。」


数分、彼女の視線を受けていたけどその声に殺気が緩む。何処から湧いてでたのか(多分窓だ、よじ登ってきやがった。グランドがやけに騒々しい。)いきなり現れた前田慶次。助かった、と思うのは少し不謹慎だろうか。

「ハロウィンだな!」
「ハロウィンですね慶次。」

こいつの祭り好きはもう病気みたいなもので、もちろん異文化であるハロウィンだって乗り気。前田が持参した菓子の一つを差し出されれば、は黙って食べる。少し落ち着いたみたいだ。


「ありがとう慶次、チョコレートには人を殺したいと思う気持ちを抑える効果があるんだね。」
「いや、そりゃあ無かったと思うんだけどな・・・。」
「お礼にこの間シュークリームとかで問題になった老舗のキャンディーあげるよ。賞味期限がちょっとすぎてるけど気にしないで。」
「おお、ありがとう・・・って、嫌がらせ?」


とりあえず貰っておくらしい前田。機嫌の悪いはとことん扱いにくい。


「待ちたまえさん!僕には菓子など無いとかいいつつ慶次くんには渡すとはどういう了見だい!?」


そこへ、未だ腹を押さえて涙目の竹中が突っかかってくる。あーあ、あのまま黙ってれば良かったのに。


「お前にやる菓子がないっていっただけですしぃ、もううざいです竹中くん。」
「黙りたまえ愚民!貧乳!!」
「黙りたまえよホモ。」


「黙りたまえ!」
「黙りたまえ。」
「黙りたまえええぇええぇ!!」


もう、目の前で喧嘩されるとうざったい。前田は何が楽しいのかにたにたと二人の喧嘩を見ている。止める気は、起きないらしい。・・・もう少しで授業始まっちまうし、これは仲裁に入ったほうがいいだろう。


「はいはーい。竹中ももその辺にしときなよ?もうすぐ本鈴鳴るしさ。それと竹中、あんまに構わないであげてよ?」
「黙りたまえよ佐助くん。君は関係ない。」
「いや、だけどね、は今日調子悪いから。」
「調子が悪い?」


竹中は、俺様を睨むのを止め、に向き直り首をかしげた。それから、何か思い出したのか一言。


「とうとう腐った熊でも食べたのかい?君ならいつかやりかねないと思ってたけど・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なんだ、なんでそんなに睨むぶごふッ!!」


なんという不幸だ。もっと空気を読めていたらフライング・ラリアットなんて食らわなくて良かったのに。




「気分悪いから次の授業サボる。」




綺麗に技を決めて着地したは、瀕死状態の竹中を置いて何処かへ走って行ってしまう。前田も俺様も、これは止める気が起きない。流石に腐った熊はショックだったろうな。


「ごほっ・・・くそ、僕が何をしたっていうんだあの雌豚・・・!!」
「・・・半兵衛、お前は雄豚だな。」
「もしくはハンペンだねぇ。」
「なんだよ、君たちまで揃って僕を馬鹿にするのか!!」



だから友達ができないんだよ、竹中。


































「ていうかさ、気分が悪いって言って腐った熊で食あたりだと思う辺りあいつ雄豚だと思うんだよね。」
「雄豚、ねぇ。」
「面白れぇなぁ、オメェはよぉ!!」


サボり恒例の保健室、備え付けのソファで俺の隣に座り、愚痴をつらつら並べるはぶすっと空を睨みつけていた。その顔も笑えるが、教室では半兵衛が雌豚とでも罵ってると思うと更に笑えてくる。ベットで横になっている元親は大声を上げて笑っていた。


「あれなんだろ、menstrual cramps.(生理痛)
「めんすとるだかめんすたるだか知らないけど女の子の日。」
「あいつもつくづく馬鹿だよなぁ、機嫌のわりぃ女はマジで怖いんだっての知らねぇわけねぇだろうに。特には「乳首ひん剥いてやろうか乳首野郎。」ごめんなさい。


気が立ってるせいかいつもより凶暴、なのは月一でこられれば慣れてしまう。(元親は別クラスだ。)二度三度頭を撫でてやれば大人しくなるのも心得た。これを知らないのは、半兵衛だけ。全く持って損な性格というか、運が無いというか。


「あーちくしょー。腰痛い体だるい、ハンペン死ねばいい、ハンペン死ねばいい。」
「二回言ったな。」
、そんなに痛いなら腰でも撫でてやろうか?」
「やめろよ政宗、お前が言うと犯罪だぜ。」


「そうですねぇ、伊達くんの発言はいつでもいやらしいですからねぇ。」


これまで黙っていた変態が会話に入ってきた。ヤツは薄気味悪い笑みを携えながらゆっくり椅子を回転させ此方を向く。(保健室はサボり場所としは最高だが唯一の問題点はこいつにあると断言していいだろう。)(ここら辺で元親が気色悪がるが、その気配を察して変態保険医が乳首潰すとか言うから黙る。)それから、仕方がなさそうに向かっていた机から立ち上がり、水と薬をの前まで持ってくると差し出す。


「・・・この怪しい錠剤はなんですか、明智先生。毒ですか、これは毒薬ですか。」
「フフッ、さんに毒は盛りませんよ。ただの痛み止めです、飲みなさい。」


因みにこの明智光秀、つい先週この学校の教師の一人・織田信長の茶に毒物を入れて学校を巻き込んだ合戦をしていた変態だ。


「じゃあアンタ俺相手なら盛るのかよ。」
「ええ、盛りますよ。寝込む薬、不感症になる薬等々。君の存在は不衛生ですからね。君に泣かされた女の子の要望です。」
「恨まれてんな伊達。」
「Shut up,nipple.(黙れ乳首)


はそんな会話をする俺たちを尻目に薬を飲む。これで落ち着いてくれりゃいいんだがな。




「失礼するよ。」




そこに現れたのは話の中心だった竹中半兵衛。こいつが授業中に教室を抜け出すなんて珍しい、なんて関心の目を向けると同時に隣でコップの割れる音がした、だ。心無しか竹中の目つきも鋭くなっている。


「やあ、君が授業を抜け出すなんて珍しいですね竹中くん。」
「先生、さっきそこのさんからフライング・ラリアットを食らってしまって喉が痛いんだ。湿布をくれないか。」
「それはそれは。」
「竹中、おま、フラ、フライング・ラリアットって、だっせー!!女にラリアット食らわせられるなんざ、どんだけ無防備「黙りたまえよ元親くん。君の局所にラリアットを食らわせてやろうか。」ごめんなさい。


明智は湿布が入っている戸棚に向かって歩き出し、元親は攻撃を食らうのを恐れてかベッドのカーテンを完全に閉めてしまった。実質、この混沌とした重苦しい空間に居るのはと半兵衛と、俺だけ。これは、俺も引っ込んだ方がいい気がしてきた。


「俺はroof(屋上)で昼寝でもしてくるか・・・。」


この後どうなったかは、ベッドでがたがた震えてる元親にでも聞けばいいだろう。































「何しにきたんだよハンペン。」
「うるさいよ雌豚、僕が保健室に来ちゃいけないのか。」
「いけないよ、お前みたいな卑猥な頭したやつは来ちゃいけないよ。」
「僕の天然パーマを馬鹿にするな雌豚。」
「空気読めないダメハンペンに言われたかないね。」


そう言っては人を殺せるんじゃないかってほど凄い眼光を僕に向けた。この殺人光線も大分克服したつもりではいたが、未だ背が寒くなる。この時点でこいつは女じゃない、これを女と呼ぶのは女性全てに対する冒涜だ。しかし、佐助くんに聞いたが不機嫌な理由は女じゃないと思い込んだところで結局は女であるを根本から否定するものなのも確かで、僕は何を思ったのかこうして恥を忍び授業を抜け出したのだ。


「君、僕に言う事はないのかい?」
「ハァ?お前に?・・・あー、前から言おうと思ってたんだけど豊臣くんがとうとう留年確定だってさ。」
「え、嘘。」
「そりゃ嘘だもん。」


このアマアアァアァァァ!!・・・いや、大人になれ僕。ここで殴っては此処まで来た意味が無い。何故来たかというと、の毒物生成を阻止するためだ。明智先生の所へ行かせた暁には毒物を持ち帰り、虎視眈々と混入する時を狙いだすに違いない。今回は本気な事もあってこの間のような腹痛ですむ可能性が低い。しかし僕一人が悪いというのはあまりにも不平等だ。こいつに土下座させてやりたい。


「ラリアットの事を謝れ、全力で謝れ。」
「じゃあ謝ってくださいってお願いしろよ。靴の裏舐めろ。」
「君本当に女か?」
「女だから生理に苦しんでるんですが、解りませんか竹中くん。」


自分にも全力で謝れと言っているのが手に取れた。腐った熊を何処までも根に持つらしい。


「・・・はあ。」


仕方がなく、僕はポケットに入れておいた秘蔵のお菓子を出す。これは、秀吉にあげようと思ってたもの。放課後をいかに楽しみに待っていたか察してほしい。こいつに渡すには惜しいものだ。しかし、今回は女性として傷つく事をしてしまった僕に否が少しあると思う。普段は断然こいつが悪い、これは確実だ。


「本当は君なんかに渡したくないところを愚民の君が苦しんでるのを見計らってあげるんだ、ありがたく思いたまえよ。そして謝れ。」
「愚民とかお前に言われたくないんですけど。・・・なにこれ?」
「不死身家のキャンディ。因みにバナナ味だ。賞味期限は切れて無いんだ感謝しろ。」


感謝しねぇよと汚い言葉を吐きつつ、僕の手からキャンディを受け取った。は訝しげに包みを眺めていたが、数分の後包装を開けると中身を口に突っ込む。の中でころころと転がるそれは、僕の中で秀吉への罪悪感を巻き起こした。


(ごめんよ秀吉、僕の生命の為にバナナ味を渡してしまったよ。)


しかしそれでいて彼女が無表情ながらも口の端が少し上がっているのを見てしまった。美味しそうに食べてくれて良かったと思ってる辺り、僕は今日という日を楽しみにしていた。本当は、彼女に味噌味のを渡そうと思っていたのに。とんだ誤算だ。


「・・・・・ね。」
「?」


くぐもった声が聞こえたので、思考して泳がせていた空中から視線をに向ける。すると彼女は珍しく控えめに、申し訳なさそうに、けどしっかり僕の目を見て言ったんだ。




「・・・ラリアット食らわせてごめんね。」




どうやら甘いものには人の心を柔らかくする効果があるらしい。






















たったひとつで変わる

「僕も、腐った熊とか言ってごめんね。」
「センセェエエェェエエ!!竹中半兵衛が頭おかしくなりましたああぁぁぁああ!!薬頂戴、馬鹿に効く薬ちょうだーい!!」
「おやおや、それは大変ですね。」


・・・・・・・・・・・・・・・・


「ちょっとさん、いや、雌豚。表出ようよ、殴らせろ。」
「上等だコラァ。てめーのもじゃ髪全部引っこ抜いてやるよ。」







「なんだ、また喧嘩かよ・・・。」
「この二人が親しくしてる方が気持ち悪いでしょう?いつも通りが一番いいんですよ。」
「まあ、そうだよなァ。あんたに気持ち悪いとか言われたくないだろうけどよ。」
「フフ、乳首をロケットランチャーに改造しますよ、長曾我部くん。」
「ロ、ロケットランチャー・・・?」

















あとがき
ハロウィン企画で爽様にリクをいただいたハンベでした!
半兵衛を可哀想にするという目標を立てたけど普通な半兵衛になってしまった感が否めないのはなんでだろうな第三作目!どちらかというと元親が可哀想だった気がしなくもないんです。学パロってことで、明智さんの位置をどうしようかとても悩みましたが保険医になっていただきました!ハンベは天然ボケキャラになってますが頭がいいといいなぁ。

補足説明
・フライング・ラリアット
ラリアットっていうのは腕を相手の喉や胸にぶち込む技で、フライングがつくとその名の通り相手にぶつかる寸前にジャンプして全体重をかけるようにするのです。プロレス技の一つで、反則ギリギリの技なんです。(参考:Wikipedia)

今回ハンベはこれをモロ喉に食らったのでむちゃくちゃ苦しかったと思います(笑)そしてハンベはラリアットの使い方を間違えてます。プロレス技に詳しくないので、間違えている部分があったら指摘お願いします。