先に断っておく。
「あれだ、つまりあれですね。」
「そうですね、あれですね。」
「あれだよなー。」
「・・・・そうですネ。」
「「恋ですね!」」
これは、主役二人の陰に隠れながらも
俺がいかに優しくいかに辛抱強いかを語ってみせたお話である。
「つことで桃くん大好きです結婚してください!」
「却下。」
がぅん、頭が鉄パイプで殴られるような音がした、ような気がした、のだが本当にしていた。ちらりと隣の女を振り返れば、卒倒したのか壁に後頭部を強打している。馬鹿さ加減はいつもながら天晴れである。続いてちらり、反対隣の男を見れば、告白に顔を赤らめる事もなく黙々と次の手を考えていた。
「おまけに目の前のバ、男はわくわくと事の成り行きを見ている、と。」
「おい今馬鹿って言おうとしたな!?」
何か聞こえた気がするが、まあこの際ギャラリーでしかない男は放置する方向で行こう。今回の主役は両隣の男女である。さてさて、通算何回目かも判らないこの一進一退の攻防、今回はけりがつくのだろうか。
俺の手札が一枚引き抜かれ、向こうは揃った数字を捨てる。
最初に口火を切ったのは男の方だった。
「大体、の愛してるとか大好きとかって軽々しい感じするじゃん。信用なんないっていうかさ。」
「その言い分酷くないか!?いつもに増して辛辣・・・!ていうか軽々しく言わないもん!ねー猿ちゃん!」
「そうだなー、お前がいつも俺に言ってるのは軽々しい内に入るんじゃねぇかな。」
数字の判らない相手の手札。俺は吟味して、真ん中のカードを引いた。スペードの5、生憎手元に同じ数字は無い。続いて女は俺の向かい側の男の手札へと指を伸ばす。本日は大変運が良いらしく、あと一手であがりという所だろうか。
「えー・・・。猿ちゃんのは動物的な意味の大好きだよ。人間と一緒じゃないし。」
「お前そろそろ殴るぞ。」
呼び名が猿なのは構わないが人間扱いされないのは不愉快である。同時に自分はそれほど眼中に入らないものなのか、恋っていうのは強ぇーなと、白旗を上げた。女は唸りながら、一枚のカードに指をかける。
「だから、違うんだよ桃くん!・・・あ、ラッキー。一番上がり。」
「違うもなにも・・・。動物的に咲羽が好きだったとしても抱きついたり好きだって言ったりってないだろー?ていうかなんでトランプ中にそういう事を言うんだよ。」
「つまり桃は二人っきりだったらオーケーしたってことなんだな!」
「一寸は黙ってて貰える?」
そういう問題じゃない、ぴしゃりと言いきるとまた男の指は俺のカードの上を行き来している。しかし、視線に込められているものは先程とはまったく違うものになっていた。じとじと、っていうか、ナイフで切りつけたそうな、嫌なものを見る目。ちらりと目が合えば口がへの字に曲がっていく。ふーん、これは中々いい兆候じゃあないか。女側から見ればだが。
「とにかく、にどんなに言われても俺はを好きになったり、ましてや結婚なんかしないからな。」
「やばい、アイアンハートな桃くんの棘に胸を貫かれた。痛い、心が痛い!」
ぎゅうっと胸の辺りを押さえて奇声を発する女は、そのうち俺の背中に抱きついて、また唸りだす。こういうことしてるから、いつまでたってもへの字の口が治らないんだってことに気付いてないんだろうか。ぷるぷる、右往左往している指が震えてる。俺に対する負の気持ちも増えていくのが目に見えてわかった。じれったいやつらだ。
「痛いよぅ、痛いよぅ。」
「じゃあ一生痛がってろ。」
「うああああ、桃くんの言葉が本当に痛い・・・!」
「勝手に痛がってるのに俺のせいにされても困るんだけど。」
煩いギャラリーの催促のお陰か、ようやく指が一枚のカードの目の前で止まる。
「つまり祐喜は、俺とが仲睦まじいのが気に食わないわけだ。」
男が引いたカードはジョーカーだった。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「え、そうなの?そうなの?」
「・・・うるさいな。」
もんもん、男の頭から噴出してくる黒い葛藤が、機嫌の悪そうな顔に出てきていた。ジョーカーのカードを手札に入れ、軽く混ぜてみせる。さあもう一押しだ主役達。俺は、友達と、まあまあ好意を抱いている女が上手くいけばこの上なく万々歳だ。もうお前達の惚気やらに悩まされる日からおさらばできるんだからな。
行動力では女の方が一枚上手であるからに、今回も行動を起こすのは彼女である。何を思ったのか、俺の背中から離れて男の背中へと移った。びくりと体を震わせ、どもった声で離れろと告げる男に本気で振り払う気なんて微塵も無い。さあさあ、もう一押し!
「・・・・ももももももも桃くん、心臓が痛いです。」
「ししししし知るか!!離れろってば!!」
「ていうかやべぇ桃くん超イイ匂いするんですけど、猿ちゃんと違うタイプのにほひ・・・!」
「うるさいっ!にほひって、お前は変態か!!」
「あの、桃・・・カード引かしてくんね?」
この惚気どもが。
と、声に出して罵ってやりたかったけど我慢した。何、今まで聞かされてきた話に比べれば糖度は極めて低い惚気だ。そして、ギャラリーでしかない男はぎこちなく差し出された二枚のカードの内の、ジョーカーじゃない方を見極めようとうんうん唸りだす。こういうやつは大抵時間がかかる。
「だ、だからっ、猿ちゃんは、なんといいいますか、動物的といいますか、!」
「ど、動物的なら男の部屋に入ってきていいのかよ!動物は動物でも人間なんだぞ!異性!」
「桃くんがやめろって言うならやめる!」
「俺に選択権を委ねるな!」
「だって桃くんが大好きなんですもの!」
「関係ないだろ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てては止まらない。こりゃ、今回も決着が付かないかと、溜め息が出る。男も、ここまで押されて折れないのは中々素晴らしい自制心だ。いや、とっくに折れてるのに、気付いてないだけかもしれない。
「・・・じゃあ、は俺と「「やだ!(だめだ!)」」
別に何も言って無いのにこの反応。
もう一押し、もう一押し。ぎゅうっと、男は腹に手を回されてぐらついている。最後の一押しをしてやろう。
「なんだ、両思いじゃん。」
冷やかせば男は顔を真っ赤にした。
ぐらりぐらり揺れる棒が地面に向かって倒れていく。
「ううう、私は桃くんが大好きなんだよぉ・・・。」
最後の一言が決めてとなって、倒れる棒をへし折ったのは言うまでもなかった。
ぼろぼろのセロハンテープで巻かれた棒が粉々に散っていく瞬間を俺は目撃する。
「・・・・・・・・、が。」
ギャラリーは沈黙をまもる。カードの上を行き来する手が止まった。
「咲羽に、抱きついたり、しないなら、いい。」
「いいって、何が、何がいい感じですか桃くん。」
どきどきどきどき、女の鼓動が声帯を刺激しているようだ。
振り絞るように吐き出された声はあまりにも情けなく揺れている。
対して男は、震えることなく躊躇う事無く、空いている片手で腹に回っている手をしっかり握り返していた。
「が俺のことを好きでいること。」
と、
「俺が、を好きでいること。」
「こっちだああああああああああ!!!よっしゃ!二番上がり!・・・って何、いつのまに桃の背中で親子猿みたいなことしてんの?」
手元に残ったのはジョーカー。男は諦め顔で、ほんのり頬を染めている。女は、まあ、意外な反応ではあるが、背中に抱きついたまま耳まで真っ赤にしていた。俺はそんな二人を見て、やっとかと男とは違う呆れ顔を作って見せた。ギャラリーの一足早い歓声でかき消されてしまった声は俺には届かなかったが、女には伝わったんだろう。それでいい。此処から先は二人の為にも踏み込まない。浅すぎず深すぎずが俺の担った役割である。
こうして、この主役達の話は終わり――ある意味の始まりなんだろう――が、一つ言わせてもらうと、此処まで滑稽な話はないだろうと思う。別になんてことない。ゴールの見えている道のりを、わざと遠回りしただけの話だ。最初から押さえ込んでいなければもう少し早くたどり着けただろうに。
取り残されたギャラリーの男は、ただただおかしな場の雰囲気に首を傾げるのであった。
どうしようもない喜劇
俺は知っている。男が女を視線で追うようになったのは、女が男に気付くずっと前であるということを。
あとがき
たたたたたたたた大変遅れてしまった申し訳ございませんんんん!!!
一体どれだけお待たせしてしまったことか・・・!すみませんちょっとスライディングして額削ってきます。
そして全てにおいて偽者勢揃いでございます・・・・!
あれぇ咲羽くんこんなコだったっけぇ?書き終えたあとあまりにも優しい咲羽くんに自分でも吃驚です。彼はドSであってほしい所なのにネ☆(殴)
そして『甘い桃くん』というリクにも関わらず、なんかツンデレな桃くんになってしまった。甘い・・・背中に抱きつくの甘い展開じゃないか!!というズレた視線からお送りしております。空気の一寸申し訳ない・・・。というか(偽)咲羽くんが異常に濃ゆかったような気が・・・げふんげふん!彼は今回キューピットですからね!仕方が無いね!!個人的に桃くんは物凄い鈍感か物凄いツンデレかであって欲しいという願いからこういうことn(撲殺)
優様、本当に長らくお待ちくださり、ありがとうございました!!
こんなものでよければ煮て捨てるなり、焼いて捨てるなり・・・どうぞご自由に!
リクありがとうございました!
素材提供:MIZUTAMA 様
THANK YOU VERY MUCH!!
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