部活から帰ってきて、見慣れない靴が玄関にあった。 もしかして、来てるんだろうか。あの人が。 「・・・サン?」 ダイニングに来る途中、方々に放り出された鞄やら車のキーを見て確信した。やっぱり来てる。 電気がついてなくて見えにくいけど、此処にいるはずだ。 「サン。」 「あ・・・準・・・。」 もう一度呼びかけて電気をつければ、ソファの上で熊のぬいぐるみを抱いて座っているさんの姿。 因みに彼女は二十歳を過ぎている立派な成人女性なのに何故かそういう格好が似合う人だ。 「ごめん、勝手に鍵開けて入っちゃった。」 「いーよ、サンはウチの家族同然なんだから。もっと来てくれても良いくらい。」 「んー、ありがとー。」 にへらと笑うと、また熊のぬいぐるみを抱きしめる。彼女を唯一癒せるのがその熊のぬいぐるみ。 ストレスが溜まってはそうやって抱きしめにきてたのに、最近は頻度が少なくなってきていた。 仕事頑張ってるのは解るけどやっぱり寂しい気持ちはある。だからこうやって来てくれるのはとても嬉しい。 「サン、腹減ってない?」 「ペコペコだよ。準は?」 「俺も。親、もうちょいしたら帰ってくるから、先に作っちゃおうよ。今日カレーだし。」 「そうだね、作ろー。」 やっとぬいぐるみから顔を上げたさんは少し目を腫らしていて、・・・腫らしていて? もしかしてさん泣いたのか。どうしたんだろう。 「さ「そうだ、準太お帰りー!」 ・・・今は泣きそうな気配が無いのでまたあとで聞こう。 お帰りなさいって言ってもらうのも久しぶりだったりする。 「ねーねー、準、私もしかして教師に向いてないのかなぁ。」 「・・・は?」 隣で野菜を切っているさんが溜め息混じりにいきなり重い話題を切り出してきたのでそちらの方を振り向いた、 けどすぐに目をそらす。さんのエプロン姿って破壊力抜群だから困るんだよな。 さんは英語教師になるために大学で勉強して、実習生やったり色々習ったりして、今年初めて正式な教師として学校に赴任した。 親同士が仲の良い俺とさんは小さいころから良く遊んでて、その頃からずっと言っていたんだ。 先生になりたいって。その彼女が教師に向いて無いと落ち込んでるなんて信じられないことだ。 「・・・サン学校でなんかあった?」 「んー、そう。あったんだよねぇ、実は・・・。」 溜め息の中に苦労の色。間を置いてから、問題児を抱えていると言った。 もしかして、そいつに何かされて泣いたのだろうか。 「もーさー、始業式の日からずっと付け回されて、かれこれ二ヶ月?何この耐久レース並みの苦痛はって話しでさぁ。」 「サン、付け回されてるってそれ問題児じゃないんじゃないの?」 「問題児だよ、数学ダメダメだもん。私英語教師なのに数学教えろって脅されるし・・・。」 「男?」 「男。」 それは確かに問題児だ。というか問題だ。男がさん付けまわすって凄い不愉快。 それって、なみさんのことが。 「始業式に告られるしさ。私首すっぱーんって飛ぶっつーの・・・ ってギャアァアアァアァア!?準太!?」 「あ、ごめん。力入れすぎた。」 さんの首の変わりに俺が持っていた菜箸が折れて吹っ飛んだ。すっぱーんって。 さんに告白?ふざけんなよそいつ何様だ。俺が何年さんに思いを寄せてると思ってるんだ。 本人は全然気付いてないけどさ。小さいころからずっと、ずっと一筋だった俺に対しての挑戦か何かか。 「・・・誰、そいつ。サン付け回してるストーカー。」 「スト・・・ああ、まあ私もストーカーだと思うけど言っちゃいけないよ。えっと、準太と同い年だよ。」 「へぇ・・・。名前は?」 「え、どうした準?なんで怒ってるの!?私平気だよ、これも教師の試練だと思って頑張ってるよ!」 「うん、サンすっげー頑張ってる。だからそいつの名前教えてよ。サン困らすやつどんなのかなって興味あるだけだからさ。」 疑わしげな目で見てくるも、笑って見せたら観念したようにもう一度、溜め息を吐いた。 「2年の榛名。」 「榛名?もしかして榛名元希?」 「うん、そう。あいつ野球は強いくせにホント頭の方は・・・ってウワァアアァ!?準太菜箸二本目大破してる!?」 「あ、ごめん。榛名の首絞める要領で持っちゃった。」 あいつ、武蔵野の榛名。あー、なるほど。ついになみさんに手ェ出しやがったのか。 へぇ・・・俺のさんにね・・・。いや、まだ俺のじゃないからさんにね、か。 「じゃあ、榛名になんかされて泣いてたんだ?」 「え、なんで!?」 「目、赤くなってる。」 「あっちゃ・・・。」 自分の目元を押さえて、恥ずかしそうにしたさんの頭を撫でてあげたかったけど怒られるのでやめておく。 身長低いから丁度手のやりやすい位置なんだけど、それがコンプレックスみたいで気にしてるから。 「で、なにされたの。」 「あ、いや。何もされてないよ!」 使い終わった食器を洗うさんの頬が少し赤くなったので、なんかおかしいな、とか思ってたら、 その手が唇に触れたので、もしかしなくても、まさか。榛名に、され・・・ 「・・・サン、唇洗っといで。」 「うぇ!?なんで解ったの!?最近準勘よく無い!?」 「いいから、今すぐ!」 洗面所を指差して急かせば、そっちの方へ駆けていく。 なんていうことだ、俺を敵に回したいのか。俺だって無いのに、ほっぺにしかないのに! フツー嫌われたくないだろうが、榛名は自己中の自信家だって聞くけど、そこまでだなんて。 ていうかさんもさんだ。抵抗すれば良かったのに。そういやさっき足引きずってたな。 こけさせられて抵抗できなかった、とか。・・・まあ、次は許さないってことで。 「洗ってきたー・・・。」 「・・・・・・潰そう。」 「え、ジャガイモ潰さないよ?」 「あ、こっちの話。」 榛名なんかにさん渡してたまるもんか。 あとで口実つけてちゅーしてやる。 「(・・・まず、榛名を叩こうか、サンを落とそうか・・・。)」 「(なんか、準太から黒いオーラが見えるんだけど・・・。気のせいだよね、私疲れてるだけだよね!?)」 ---------------------------------------- 『その6』から続いてきた準さん。同じヒロインさんです。駄作どころの話じゃなくなってきたね☆←う ざ い しかも準さんちゅーとかいうのか、ちゅーとかほっぺとか言うのかな・・・! 勢いで書いてるので説明不足が色々ありまして、私の頭整理も兼ねて補足。 ・ヒロインさんは武蔵野第一の新任教師 ・準さんとは、ちっちゃい頃からの知り合い。 ・暴力の中に愛有り(榛名的愛情表現?) ・爽やかの中に黒有り(準さんこういうキャラだと思い込んでる) 因みにヒロインさんの地元は現在の居住地とは違います。一人でアパート住まい。 なので時偶にぷりんちゃん(熊のぬいぐるみ)の癒しと食事を求めて近所の高瀬家へお邪魔してます。 高瀬家では本音ぶちまけまくりだと面白いかなとか思ったり。 ・・・小話のくせして設定が凝ってるよ・・・!準さんと料理がしたかっただけなんです。 何故か準さんのが凄い短いけどやっぱり小話だからいいんですよね!?(聞くな) 『おお振り!投手恋愛シリーズ』第三弾・・・ですが、なんかノリ的に榛名vs高瀬・・・? ←榛名のってのはコレだったりします。 <<07.9.8>> |